コレジャナイブログ

かわさきロボット競技大会、通称かわロボについて情報の交流を目的として書きます。

スライダーヘッケン

後輩のところに技術継承に行ったのですが、いまいち伝わってない感があったのでまとめときます

スライダーヘッケン脚についてです。
書くことは基本的に自分個人の解釈ですので、全体としての共通認識ではないことをあらかじめ伝えておきます。


1、まずスライダーヘッケンとはなんぞや
別に知らない人はいないと思いますが、可愛い後輩のために丁寧に説明していきたいと思います。


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こんな感じの脚です。

Q.”ヘッケン”と名前がついていますが、何がヘッケンなのですか?
A.動きがヘッケンです。


Q.スライダヘッケン以外にもうしとら脚やサーキュラーヘッケン・円弧スライダーなど耳にしますが、これらはなんなのですか?
A.厳密には違いますが、みんなこいつです。


Q.よく動かしづらいという話を聞きますが、本当ですか?
A.本当です。ヘッケンその他の脚に比べれば、と注釈します。


Q.どんなメリットがありますか?
A.脚を薄くしやすい・パーツ点数が少ない・名前がかっこいい等のメリットがあります。


Q.どんなデメリットがありますか?
A.動かしづらい・脚が大きくなる等のデメリットがあります。


Q.性能はどうですか?
A.基本的にはヘッケンと変わらないと感じます。


こんな感じです。僕のはヘッケンをスライダー化したものです。他の呼び方の脚はそれぞれ原型が違うのですが、行き着いた形が似たということです。


一応どういう変異を遂げたかというと(変態向け豆知)

ヘッケン「これコンロッドとレバー接合位置を円弧中心としてレバー軸の座標で円弧書いたらいけるんちゃう?」
  →スライダヘッケン「やあ」


サーキュラーヘッケン「これ結局すべり軸受けなんだからスライダーでもいけるんちゃう?」
  →スライダヘッケン「やあ」


うしとら脚「これスライダー軸2本なくてもいけるんちゃう?」
  →円弧スライダー「やあ」


スライダー「これ脚の軌道ってスライダーの形に依存してるよね?スライダーの形変えても動くんちゃう?」
 →円弧スライダー「やあ」


みたいな感じです。スライダーヘッケンと円弧スライダーにはヘッケン軌道かそうでないかという厳密には大きな違いがあるのですが、性能的にはほぼ変わらないのでぶっちゃけどっちでもいいです。


ちなみに、なぜヘッケンの機構がいいかというと(よくわかんないひとは飛ばしてください)
かわロボ用の脚を0から設計したことのある人はわかると思いますが、かわロボのルール上脚は最低二枚からでないと理想的な条件が得られませんよって「より円に近い方が良い走破性が得られる」とされているかわロボ脚を設計する場合最良で円弧軌道になる必要がありそのためには円弧の軸が必要ですがモーターを使った回転運動から脚機構としての揺動を得るためには180°で行って180°で帰ってくる必要が出てきますそうすると理想形は180°円軌道で残り180°で元の位置に帰ってこなければなりませんがもちろん軸を一点で設計する場合得られる軌道は真円にしかならないので軸位置は移動する必要が出てきますこのとき4節リンクをある比率で使用する時180°で円軌道残り180°で元の位置に回帰するという軌道が得られますがこの場合レバー位置からクランクが最大で離れる角度と最少で近くなる角度で機構が逆パカする危険が出てくるのでこの時点で脚の枚数を3枚に設定すると脚一枚に期待される円軌道時の角度は120°なので元々設定していた円軌道180°から考えると前後30°の余裕ができるのでその角度で逆パカを避けるための逃げが設定でき(ほぼ)円軌道を得られる機構として安定的に成立できるヘッケン機構は素晴らしいよねということがわかります。
要は足先の回転軸が移動してくれるのが嬉しいのです。

もちろん円軌道なら脚はいいのかと言われれば必ずしもそうとは限らないですが、あんまり円じゃないよりは円軌道に近い方がいいですよね。
ちなみにスライダーヘッケンは4節リンクをスライダーにしただけなので軌道的な縛りは4節と同じになってしまうのです。僕は設計の時に感覚が分かりやすいのでヘッケンから作っているだけで、円弧スライダーだと真円に設定できるので、円に近くしたい人はそっちの方がいいです。
基本的に機構的な自由度ではスライダーの方が上です。



2、どうやって設計するの?
まず基本的な設計の仕方から解説することにします。難しいのは設計するより動く設計にすることなので。
今回は僕がいつもやっている神ソフトLinksを使っての設計です。
Linksについてわからないかたはこちらへどうぞ→ http://signed.bufsiz.jp/Links.html



それでは3分でできるスライダヘッケン講座始まります!

まずは
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こちらがLinksで設計し30分程寝かせたものになります(唐突)

Linksがどれだけ浸透してるかはわかりませんが、まぁこんな感じでできるでしょう。
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その中でレバーから一番遠い脚と近い脚を使います。(ほんとは180°位相で2つ脚で出すとやりやすいです。今は脚としてわかりやすいように3枚にしています。)

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脚を二つくっつけます。この時点でレバー軸に円を書いておくといいです。


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レバー軸に円を書いたら片方をもう片方の足に重ねます。重なった線は消しておくといいでしょう。


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コンロッドとレバーの接合部からレバーまでの長さの円を引きます。これがスライダーの円弧です。


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円弧の端はそれぞれ逃がしを作っておくといいです。僕は円の接線方向に3㎜伸ばしています。


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あとは肉をつけて完成です。

僕はカムで設計していますが、クランクでも可能です。カムで設計する場合、いつものヘッケンと違ってカムが大きくなるので、そこを考慮に入れる必要が出てきます。レバーの位置もヘッケンより遠くなるかな?という感じです。レバー位置をクランク中心から離す程脚の上に飛び出るスライダー部が高くなるので、あまり上に飛び出してほしくない人はなるべくレバーを近くにするといいです。

カムだとクランク半径が取りにくいので、自分のおすすめの設計手順としては
①ほしいクランク半径を決める
②カム同士の接合を視野に入れ、カムの大きさを決める
③スライダー溝の幅を決める(どのサイズのベアリング入れるか、など)
④必然と取らなければいけないレバー位置を割り出す(あまり近いとカムにスライダー軸がめり込みます。)

僕はレバー位置は クランク半径+カム半径+スライダ軸ベアリング半径+つけたい肉3㎜~5㎜くらい で計算します。よくわからないという人は設計してみればわかります。
全部書いちゃうのもつまらないなと思ったので、わざとざっくりで書いています。色々工夫してみてください。


スライダヘッケンの設計はこれで終了です。別にむずかしくもないです。ではここからが本番です。



3、なんで動かしづらいの?
実はこれを知っているだけでこの脚が断然動かしやすくなります。最初に動かすのは難しいと言いましたが、ぶっちゃけ嘘です。割と動きます。

スライダヘッケンが渋い理由はおおよそ3つくらいあります

①スライダーが滑りであるため。
そもそもスライダーとは滑らせる機構なので、全て軸でつながっているヘッケンと比べれば摩擦が強くなってしまうのです。


②切り替えしはどっちにせよ渋い
「なぜスライダヘッケンは渋いんだ!」と悩みつつ普通にレバーの切り返しのところが渋いだけということもあります。まずヘッケンとして設計する際にあまり攻めた脚にはしない方がいいです。摩擦などの問題も相まって、特に切り返しは渋くなります。


③スライダーが噛む
これが一番決定的な問題です。明らかにロックして動かないスライダーヘッケンがあったらだいたいこれが原因です。
そしてこの問題が一番わかりづらいといういやらしさ。スライダーヘッケン開発はドMにはたまらないイベントでした…


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これはめっちゃ汚いですが、2年前に作った僕の脚です。今回は参考のために来ていただきました。(見やすいようカバーを外しています)

スライダーヘッケンを動かそうと思っていじっている人にありがちな見落としですが、みなさんこの角度から脚を見ていませんか?手で回しながら「動かねー」みたいに唸ってませんか?

それだとずっと動かないです

正解は

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こちらです!\デデン/
何かというと、スライダーヘッケンで大事なのは上から見てブレていないかということです。


  イメージ 11    イメージ 12
写真は脚を一つ持ってきて、軸に対して真上から見た図です(見やすくするため若干ずらしてますが)

左の写真は軸に対し垂直になっている脚です。この場合問題なく動きます。

対して右の写真は脚が横にぶれている非常にまずい状態です。この場合スライダー溝に軸が噛んでロックします。どうしてロックするかは
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これは軸とスライダー溝を断面で見たものと考えてください。
こんな感じにちょっとでも引っかかるとそのままロックします。写真では多少オーバーに写してますが、ちょっと噛めばすぐにロックします。
これは図のように寸法的に噛んだり回転に対する圧力角が嫌な感じに作用したりそもそも摩擦が強かったり等色々な理由がありますが、完全に解明はされてません。

要は左右にブレてロックするんですよ

ということです。
僕が研究した中でダントツトップ(意味被り)の原因はこれでした。これがわかればあとは対策するだけですね。



④じゃあどうやって動かすの?
原因がわかったので、どうやれば動く脚になるのか説明します。


①あんまり脚を攻めすぎない
設計の時点であまり脚をせめて切り返しの負荷を大きくしないようにしましょう。



②ロックしない様にしよう
これが一番大事なものですね。ロックする原因は「左右にブレて・軸と噛む」です。つまり「左右にぶれないようにする」「軸と噛まないようにする」が解決策となっています。

ここで代表的に使われている方法を二つ紹介します。

1、脚が左右にぶれないようにカムで挟む
せっかくのカムリンクなので、脚をフランジのついたカムで両側から挟み込みます、こうすると左右のぶれを抑えられるので、スライダーが噛みづらくなります。

2、スライダー軸にベアリングを入れる
これは脚が左右にブレたとしても、ロックするときの力をベアリングで流してしまうという方法です。僕はこちらを採用しているので写真の脚はこの方式です。


この二つがメジャーな方法です。もちろん両方採用するのもありで、ついでにカムの中にはベアリングを入れておくと完璧だと思われます。

僕の場合は「最低限良く動く脚」を目指していたのでスライダー軸にベアリングだけで動かしてます(今年のは違いますが)。写真の脚はカムも脚もポリカというキチガイっぷりですがよく動いています。むしろ次の年の脚は足先がYH75にPOMのすべり軸受けでしたが1年も使うとPOM側が削れまくっていました。ポリカ同士だとあまり削れずに今なお上下動なく動くのでちょっと気に入ってます。



③潤滑材が最後の頼り
ここまでやってさえ、やっぱり脚が渋くなったりします。そこで頼りになるのが潤滑材です。
脚を組み立てていざ動かそうとするとなぜか動かなくて絶望するなんてことはスライダーヘッケンを使う人には割とありがちだと思いますが、そんな時は潤滑材をだぶだぶにして回すと驚くほどよく回るということも良くあります。

僕はよく「スライダーヘッケンを堅実に動かすならベアリングを入れればいいけど、スライダーヘッケンを動かす魔法の言葉はシリコンスプレーだ」と言います。ガチです。(別にシリコンスプレーでなくてもいいと思います。)
今年の脚も組み立てた時は動かなくて10分くらい絶望しましたが、シリコンスプレーをさして回したら超調子よくなったので幸せでした。本大会でも六角ドライバーと一緒にシリコンスプレーは必ず持ち歩いていました。

もし脚が渋くなっても諦めずに潤滑材をさして回してみてください。というか「だいたい潤滑材させばなんとかならね?」は割と共通見解になりつつあると思われます。致命的な問題さえなんとかすれば、あとの問題はこいつが解決してくれる節は大いにありますので。困った時の潤滑材です。




以上スライダーヘッケン講座でした。おそらくここに書いてあることで脚は動くと思います。あえて詳しく書いていないところも割とあります(一応登竜門なので)が、質問は随時受け付けます。

長々と見てくださってありがとうございました。これで一つでも多くの脚が動くと嬉しいです。

頑張ってください!